#25 セロ弾きのゴーシュは左利き?フランス語の右と左

雑学コラム

「gauche(左)」の意味

宮沢賢治の小説「セロ弾きのゴーシュ」
「ゴーシュ」は主人公の名前ですが、この名前を聞くたびに「左」という言葉が浮かびます。
なぜなら「ゴーシュ」はフランス語で「左の」とか「左」という意味だからです。(形容詞だとgauche」 ゴーシュ「左の」となり、女性名詞だとgauche ゴーシュ「左」となります。)
ではセロ弾きのゴーシュは左利きだったかというと、作中ではそんなことは書かれていません。じゃあ偶然ゴーシュという名前になったのかと言うと実はそうでもないかもしれません。作者がそのことについて言及していないので真偽のほどは分かりませんがこの「ゴーシュ」という名前、やっぱりフランス語から来ている可能性があります。

というのはgauche」 ゴーシュという形容詞は「左の」という意味の他に「不器用な」とか「ぎこちない」という意味があるからです。
主人公のゴーシュは話の冒頭で演奏が下手だと言われます。ひょっとしたら「器用に演奏できない」ということからゴーシュという名前になったのかもしれません。(もしくは楽器は通常右利き用に作られているので、もしゴーシュが左利きだったならうまく弾くのが難しかったのかもしれません。)

しかしどうしてgauche」 ゴーシュ「不器用な」という意味になるのでしょう?
一説には「右利きの人が多数派で、左手を上手に扱えない人が多かったため」とも言われています。うーん、なんだか不公平な感じがしますね。これだけでなくフランス語単語の「右」と「左」では右の方が良いイメージを持っていることが多いです。

「droite/droite(右)」の意味

ではフランス語で「右」はなんと言うのでしょう?
「右の」を意味する形容詞は男性形だとdroit ドロワ、女性形だとdroite ドロワットゥです。
この「droit」 ドロワ と「droite」 ドロワットゥには同じスペルの名詞もあります。
男性名詞だとdroit ドロワ、女性名詞だとdroite ドロワットゥになりますがこの単語は男性名詞と女性名詞で意味が変わります。

女性名詞のdroite ドロワットゥはそのまま「右」という意味ですが、男性名詞のdroit ドロワはだいぶ意味が変わります。
男性名詞のdroit ドロワには「権利」とか「法律」、「正義」、「税」といった意味があります。
例えば1789年に採択された有名なフランス人権宣言(人間と市民の権利の宣言)はフランス語では「Déclaration des droits de l’Homme et du Citoyen」と書き、「権利」と言う意味でdroit ドロワが使われています。
うーんgauche」 ゴーシュ「不器用な」という意味なのに対してdroit ドロワはなんだか重要そうな意味が多いですね。

これを聞くとひょっとしたら英語を話せる方は「あれ?英語の「右」(right)もそんな感じだな」と思われたかもしれません。英語でも「右」を意味する「right」ライト には「正しい」「権利」といった意味があります。(例えば「that’s right」(その通り)とか「all right」(大丈夫) といった使われ方をしています。)

左より右の方が優遇されている?

何だかフランス語も英語も「右」を重要視している気がしますね。
どうやら「左」より「右」の方を尊重する傾向は世界中にあるようです。例えば「右に出るものはいない」という古代中国に由来する慣用句がありますが、この表現が生まれた理由も右の方が位が高かったからだそうです。
時代や国によっては「左」を優遇する場合もあるようですが、基本的には「右」の方が上とされる場合が多いみたいです。どうしてなのでしょう?

諸説ありますが、「右利きの人が多い」というのが理由の一つのようです。
ちなみにフランス語で「左利きの人」は男性形でgaucherゴシェ、女性形でgauchèreゴシェ―ルと言い、「右利きの人」は男性形でdroitierドロワチエ、女性形でdroitièreドロワチエ―ルと言います。

現代ではサウスポーと聞くとなんだか芸術家っぽくてかっこいい感じがしますし、スポーツによっては有利になったりしていいイメージがありますが、それでも人数的には右利きの人の方が多いです。なので例えば楽器とかはさみなども含め、日常生活でも右利き向けに作られているものが多いようです。
できればこれからはgauche」 ゴーシュの「権利」も尊重して良いイメージの意味が増えて欲しいです。

ところでフランス語の「右」という言葉には実はもっとややこしい意味もあるんです。
フランス語を学習する日本人にとって非常にまぎらわしいこのもう一つの意味とは何でしょうか?ちょっと長くなるのでこれは次回の記事に書きますね。

コメント

  1. John Bond より:

    You could certainly see your expertise in the article you write. The arena hopes for even more passionate writers like you who are not afraid to say how they believe. Always go after your heart.

タイトルとURLをコピーしました