女の子がマドモワゼルなら男の子は?
「マダム」「ムッシュー」と聞くとどんな人をイメージしますか?
良い家に住んでいる上品な人をイメージするかもしれません。でもフランスではどんな人でも「マダム」か「ムッシュー」です。
例えば道を歩いていて、前の人がハンカチを落としたとします。その人が女性なら「マダム」madame 、男性なら「ムッシュー」monsieur と言って呼び止めます。
ただ基本的にどんな人でも 「マダム」か「ムッシュー」なのですが、例えば小さな子供に「ムッシュー」と呼びかけるのはちょっと違和感があります。その場合はどうするでしょうか?
女の子なら「マドモワゼル」mademoiselle と呼びかけることもあります。(この呼び方については付け加えることがあるので後述しますね。)
では男の子なら何と呼びかけるのでしょう?「garçon」 ギャルソン「少年」?うーんなんか微妙…高校生とかなら「jeune homme」 ジュンノンム「青年」と呼びかけることもありますが、小学生とかだとそれでも違和感がありそうです。

そう、男の子にはmademoiselle マドモワゼルに相当する呼称が現代はないんです。
そもそもmadame マダムは既婚女性に対して、mademoiselle マドモワゼルは未婚女性に対して使用される言葉なのですが、女性は未婚、既婚で分けて男性は分けずに全員monsieur ムッシューってなんだか不公平ですよね。
ということでフランスでは2012年に行政文書でのmademoiselle マドモワゼル表記を禁止にしました。それまでフランスでは日本の行政書類で言う「男性・女性」のように「monsieur・madame・mademoiselle」を選ぶようになっていましたが、この選択肢からmademoiselle マドモワゼルをなくしました。
ただ行政書類で禁止になったとはいえ街ではまだmademoiselle マドモワゼルという呼びかけはよく聞きます。(未婚か既婚かというよりぱっと見の年齢で使い分けているようですが。)学生とかにmademoiselle マドモワゼルと呼びかけている人もよく見かけます。
でもmademoiselle マドモワゼルには未熟とかいった意味合いが含まれるそうなので、この呼びかけを嫌だと思う人も多いかもしれません。
「うーん、女の子にmademoiselle マドモワゼルと言えなくなったら不便じゃない?」と思うかもしれません。そもそも男の子にはそれに相当する呼称がないので「じゃあ名前を知らない子供たちには何て呼びかければいいの?」ということになりますが…よく考えたら日本語ではどうでしょうか?
ハンカチを落とした知らない人に何て呼びかけますか?「ご主人」?「ご婦人」?うーん…言わない気がします。子供連れだったら「お母さん/お父さん」とか「奥さん」とかで呼びかけたり出来そうですが、子供がいるかどうか、それこそ既婚かどうか分からないと呼びづらいですね。
高校生ぐらいの子に「お嬢さん」とか「少年」とか呼びかけるのも今の時代だと違和感があります。自然な呼びかけというと小さい女の子に「お嬢ちゃん」、小さい男の子に「ぼく」と呼ぶくらいでしょうか。
そうです。日本語にはmadame マダム、monsieur ムッシューに相当する万人に使える身近な呼称がないんです。
なのでハンカチを落とした人がいたら「ちょっと」とか「すみません」とか別の言葉で声をかけるのが一般的です。
フランスはmadame マダム、monsieur ムッシューがあるだけ日本よりも便利ですね。
マダムは「わたしの婦人」?
ちなみにmadame マダムの「ダム」は dame「婦人」という意味です。マダムの「マ」ma は「わたしの」を意味する所有形容詞の女性形です。つまり直訳だとma dame マ・ダム「わたしの婦人」という意味になりますね。
「わたしの」ではなく「わたしたちの」を意味する所有形容詞notre ノトル をつけると「notre dame」 ノトル・ダムになります。ということはノートルダム Notre-Dame は直訳だと「わたしたちの婦人」という事になるんですね。(「Notre-Dame」ノートルダム という言葉はイエスの母親のマリアを指しても使われます。)
monsieur ムッシューも同じで「わたしの」を意味する所有形容詞の男性形mon モン と「~氏」を表すsieur シュールを合わせた言葉です。普通に発音するとモンシュールになりそうですが、なぜかmonsieur ムッシューと発音します。monsieur ムッシューは意外と珍しい、発音規則から外れたフランス語単語です。
mademoiselle マドモワゼルも所有形容詞の女性形maマ にdemoiselle ドゥモワゼル「お嬢さん」を付けた言葉なので直訳は「わたしのお嬢さん」になります。
どれも「わたしの」を付けて呼んでるんですね。
ちなみに女性が複数いると所有形容詞も複数形に変わるためmesdames メダムと呼び、男性が複数いるとmessieurs メッシューと呼びます。
mademoiselle マドモワゼルの複数形はmesdemoiselles メドモワゼルになります。

それでは今回はこの辺で。
「mesdames et messieurs」 メダム・エ・メッシュー
また次回の記事で会いましょう。
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